すべて手作業、手間ひまがかかります。富倉そばのつなぎ「オヤマボクチ」の作り方

農業レポート

飯山の名物そば「富倉そば」は、そば粉10割で、つなぎに「オヤマボクチ」という植物の繊維が使われています。

長野県飯山市にある富倉地区は、山間にあるため小麦の栽培が難しく、周辺に自生している多年草オヤマボクチから繊維を精製し、そばを打つようになったそうです。

富倉以外の地域でもオヤマボクチをつなぎに使ったそばがあり、「ぼくちそば」といった名前で呼ばれています。

オヤマボクチ(雄山火口)という名称は、その昔、火縄銃の火種にその繊維が使用されていたことからきているそうです。また、山菜としてはヤマゴボウと呼ばれています。

飯山市の選択無形民俗文化財にも指定されている富倉そばですが、近年、そばの打ち手も少なくなってきています。希少な食文化を次世代に継承していくため、今回、一般社団法人 飯山そば振興研究会で、オヤマボクチの栽培・収穫方法や、繊維を取り出す製法の手順をマニュアル化するプロジェクトが行われました。

すべてが手作業で、大変な時間と手間がかかるオヤマボクチの精製工程。まずは畑へ行ってきました!

オヤマボクチを栽培する畑へ

近年、山に自生するオヤマボクチが減少傾向にあるため、採種して苗を作り、畑での栽培が行われています。こちらが飯山市内某所にある、2〜3年経過したオヤマボクチの畑。

花はアザミのよう。大きいものでは、握りこぶし程度ありました。

オヤマボクチの栽培からつなぎとして使う繊維の精製までを教えてくれるのは、一般社団法人 飯山そば振興研究会の仲條早苗さん。富倉地区の住人で、富倉そばの打ち手でもあります。結婚して富倉に住むようになり、義理のお母様に富倉そばの打ち方を教わったそうです。

繊維を採取する葉を収穫します。葉の付け根部分を親指と人差し指で押さえ、中央の硬い葉脈を残すようにしてひっぱる。「親指でしっかり押さえるのがコツ」とのこと。

動画でもどうぞ。

葉の状態によってうまくできたり、できなかったりしますが、コツをつかめばスイスイ作業がすすみます。

葉の裏は白く、まるで和紙のような手触り。葉の断面には、ふわふわした細かい繊維を見ることができます。なるほど、これを見たら「何かに使えそう…」と思いますね。

長野県下高井農林高等学校の食文化コースの生徒も一緒に葉の収穫をしました。地域の食文化であるオヤマボクチをつなぎにしたそばを打つという目標を掲げ、今回がその第一歩です。

ドロドロの佃煮状になるまで、半日ほど煮沸

みんなで収穫した葉を持って、飯山そば振興研究会の拠点施設「棚田の杜ほくずいへ。元保育園だった施設には広い庭にあり、大きな鉄製の釜から湯気がもうもうとたっていました。

この釜で豪快に葉を煮沸します。

オヤマボクチの葉を釜に投入。

しばらく煮て、しんなりしてきたらアク取り用の重曹を投入。黄色い泡がぶくぶくと、釜から吹きこぼれそうになる勢いでたってきました!

何かイケナイものを作っているような見た目…になってきましたが、葉が佃煮状になるまで半日ほど煮込み、温度が下がるまで放置します。

その後、葉の煮汁をビニール袋に入れて口を縛り、日当たりの良い屋外に約1か月ほど置いて腐敗を促進させます。

腐敗、洗浄、ちぎって乾燥

次の作業は1か月後…ではなく、さながらテレビの料理番組のように、1か月前から腐敗させておいた肥料袋が出てきました! 中身をステンレス製のザルに入れると、腐敗が進みさらにドロドロになっていました。

流水で繊維以外のドロドロを洗い流します。この作業、川の水でしたりもするそうです。

繊維を絞ったときに水が澄んでいる状態になるまで洗浄します。

他の植物の茎などのごみを取り除きながら繊維を小さくちぎり、紙を敷いたザルに並べて乾燥させます。

ほぐして線維化

乾燥後、ごみを取り除きながら指で広げていくようにほぐして繊維化していきます。

富倉そばの打ち手、仲條早苗さん

いったん乾燥させたものの、ゴミが多かったので、もう一度洗い直して乾燥させたそうです。

こちらはすでにできあがっていた、そば打ちに使うオヤマボクチの繊維です。

そばのつなぎに使われるオヤマボクチの繊維

人によっていろいろなやり方があるそうですが、仲條さんが富倉そばを打つときには、この繊維を少し煮てから小分けにちぎってそば粉に混ぜ込んでいくそうです。

すべて手作業で、大変手間のかかるオヤマボクチの繊維の精製。富倉では雪に囲まれた冬の間に、こつこつと作業されているそうです。

葉1キロから4〜5グラムの繊維が精製でき、これで10人分のそばを打つことができます。

高校生と新そばまつりを開催!

2021年11月20・21日に、飯山そば振興研究会と下高井農林高等学校のそば班とのコラボ事業として、飯山産の新そばが味わえる「新そばまつり」が「棚田の杜ほくずい」で開催されました。

「全国高校生そば打ち選手権大会」で、団体・個人準優勝した実績のあるそば班の生徒たちは、作業を分担しながら、慣れた手付きでそばを打っていました。

今回、そば班が作ったのは、小麦粉をつなぎに使った二八そばでしたが、来年はもしかすると、オヤマボクチをつなぎに使った富倉そばが食べられるかもしれませんね。期待しましょう!

打ちたての新そば、とってもおいしかったです

富倉そばは二八そばと比較して打つのが難しく、繊維が入っているので切るのも難しいそうです。

一般社団法人 飯山そば振興研究会では、そばの打ち手の養成もするなど、この希少な飯山の食文化を次世代に引き継ぎできるよう、さまざまな取り組みを行っています。


◆関連リンク

一般社団法人 飯山そば振興研究会Facebookページ

長野県下高井農林高等学校

今回の事業は、令和3年度農山漁村振興交付金(中山間地農業推進対策)により実施されました。

(撮影・取材:佐々木里恵)

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