飯山産のケールを東京五輪の選手村食堂に提供! 岡忠農園が拡げる「楽しい農業」の輪

写真提供:岡忠農園

新型コロナウィルスの影響で、1年延期されて開催された東京オリンピック・パラリンピック2020。試合や競技以外にも注目が集まったのが、各国の選手がSNSに投稿して話題なった、選手村食堂の料理のおいしさでした。

実はその選手村食堂に、長野県飯山市の岡忠(おかちゅう)農園が栽培する野菜「ケール」が提供されていたのです!

飯山市にUターンして新規就農をして7年目。アパレルのマーチャンダイザーだった経験を活かした独自のスタイルで農業を営む、岡田忠治さんからお話しを伺いました。

選手村食堂に岡忠農園のケールが採用された経緯

オリンピックで使われる食材には厳しい基準があるんです。それに選ばれるということは大変光栄なこと。以前から、無料でもいいからケールを使ってもらいたいと思っていて、周囲の人に伝えていました」と岡田忠治さん。

飯山市木島地区にあるケール畑

青汁の材料として知られているケールは、生で食べてもおいしく、栄養価が高い“スーパーフード”としても人気。

ケールは本来、冬に栽培する野菜なのだそうですが、飯山は豪雪地帯にあるため、岡忠農園では毎年試行錯誤しながら夏に栽培しています。現在では取引先のひとつである東京の仲卸会社には、毎日100キロものケールを出荷中。今回の話は「普段からお付き合いのある、その仲卸会社が持ってきてくれた」そうです。

病気が出やすいので、国内で夏場にケールを栽培している農家は少なく、継続してある程度の量を出荷できる農家となると、さらに少なくなるそうです。

そして、岡忠農園はケールの栽培において長野県のエコファーマーの認定を受けています。仲卸会社はそのことを知っていて、東京オリンピックが開催される夏場に、品質の良いケールを確実に出荷できるという信用があったことで、実現したことだったのです。

「オリンピックに出場するのは世界のトップアスリート。ケールを選手村で食べてもらって、なんだか自分も東京オリンピックに出られたようでうれしい。夢がかなった!」

長野県のエコファーマー制度とは?
土づくりと化学肥料・化学農薬の使用の低減を一体的に行う農業生産を計画し、知事の認定を受けた農業者を認定するもの

飯山にUターンして農業に初挑戦

岡田忠治さんは飯山市木島地区の出身。2014年に東京から飯山市の実家に、妻の早苗さんと夫婦でUターンしました。

引っ越しの片付けが終わって落ち着いたところで、「目の前の畑で野菜でも作ってみようか」と、家庭菜園に初挑戦したのが農業に従事するきっかけでした。

ケールを栽培することにしたのは、ブラジル料理レストランで初めて食べたケールのおいしさに感動したことがきっかけ。でも、スーパーには売っていない…。 ならば自分たちで作ろう! と動き出しました。

生で食べてもおいしいカーリーケール

岡忠農園は、雑貨の企画開発をしていた早苗さんが社長。長年アパレル業界のマーチャンダイザーとして、婦人服ブランドの企画から流通までの仕事に30年以上携わっていた忠治さんが営業担当という役割。

ケールを栽培するにあたっては、もちろん市場調査をし、アメリカに視察にも行きました。

「服も野菜も、作って売るのは同じこと」と、販路は飛び込み営業もして開拓。「らでぃっしゅぼーや」「Oisix(オイシックス)」といった食品の宅配サービスをはじめ、グルメサラダを提供する「ケールの王様」、食のセレクトショップ「DEAN & DELUCA」など、多数の飲食店にケールを提供しています。

営業に関しては、常に種まきをしている。こちらから行ったり、先方から話が来たり」。営業をしている農家は多くなく、ライバルも少ないのだとか。岡田さんいわく「あるもの売るのは簡単。野菜を作る方が大変だよ!」

実績を積み上げることで得た信用

農業は、気候の変動や自然災害などの影響を受けやすいものですが「天候が悪くて収穫できなかったでは済まされない。常に多めに、10の注文だったら、20作っておく」と岡田さん。圃場もいくつかに分散するなど、リスクに備えながら栽培しています。

品質の良いものを届けたいという思いで、選別も厳しくしているそうです。

「ケールの収穫は涼しい早朝に、1枚ずつ葉の状態を見ながら行います。特に収穫し始める時期は、状態の判断が難しいので、必ず自分たちで」と早苗さん。

収穫の際、圃場では3〜5割を廃棄することも。さらに出荷時の検品では、再度1枚ずつ葉の状態を見ながら虫や汚れを取り、1割程度を落としているとのこと。

うねの間には、はじかれたケールが

廃棄される割合が多いことに驚きましたが、「これが自分たちの考えるあたりまえのクオリティ。岡忠クオリティだね」。良いものを提供し続けることで「岡忠農園のケールっていいよねって、信用ができた」と岡田さんは自負します。

らでぃっしゅぼーやでは、カーリーケールを食べたお客さまから、そのおいしさが評価され「農家・オブザイヤー2020−2021」を受賞しました。

コロナ禍で余ったケールを商品化「もったいないケールコロッケ」

また、らでぃっしゅぼーやを運営する企業、オイシックス・ラ・大地は、コロナ禍で外食需要が減ったことで余ってしまったケールを岡忠農園から買い取り、「もったいないケールコロッケ」として商品化。10月から販売されることになりました。

これを皮切りとして、岡忠農園のビーツもコロッケに商品化されることになりました。ビーツの赤い色が、コロッケに映えそうですね!

こちらも栄養価が高く「食べる輸血」とも言われるビーツ

取引先も生産量も年々増えて「毎年もう限界! と思ってやっているけど、コロナ禍が終わったら、レストラン営業が再開するのでさらに忙しくなる…」そう思いつつも岡田さんは、次々にひらめく商品開発のアイデアを提案中なのだとか。

ビーツの収穫風景。草の間からビーツを抜き、茎を取り除きます

雪国ならではの「雪室」でブランディングも

飯山市が取り組んでいる雪室(ゆきむろ)活用プロジェクトにも関わっています。雪室とは、冬に降り積もった雪を倉庫に入れ、天然の冷蔵庫として利用するもので、夏でも温度1〜3度、湿度100%を保つことができます。

岡忠農園では、ここでビーツなどの根菜類を保管して出荷しています。雪室で熟成させて付加価値をつけた雪室野菜としてのブランディングも考えているとのこと。

農業は楽しい職業。地域のためにも「次の人を育てたい」

「いつかは飯山に戻ろうとずっと思っていた。戻れてよかった」と言う岡田さん。地域の農家の高齢化、後継ぎや担い手不足についてなどが気がかりで「次の人を育てたい」という思いがあります。

そのためにも、農業は楽しい職業と思われるように、自分たちが「魅せる農業者」になれるよう意識しているそうです。

そんな岡忠農園の影響で、それまで持っていたネガティブな農業に対するイメージが変わり、Uターンして飯山市で新規就農したのが霜田さん夫妻です。

他にも2人、新規就農を目指して研修中の方が岡忠農園で働いています。

「飯山市で新規就農して成功するために、栽培する野菜の品目や売り方など“どういう方向”で就農していくのがいいのか。そういったことの相談役になれれば」と、自らのノウハウを共有することをいとわない岡田さん。

そんな思いに共感し、実践する人が増えることで、私たちの地域の未来がちょっとずつ、いい方向に変わっていくのかもしれません。

(撮影・取材:佐々木里恵)

岡忠農園
岡田 忠治さん・早苗さん
 忠治さん 飯山市出身 63歳
 早苗さん 大阪府堺市出身 47歳
2015年就農
栽培している主な品目:ケール、ビーツ、紅芯大根、米
経営面積:300a
家族構成:夫婦

岡忠農園ホームページ

「食べチョク」で、岡忠農園の野菜がお取り寄せができます。

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