八幡屋礒五郎の唐辛子契約栽培に挑戦!

9月中旬の朝、飯山市内某所に持ち込まれた、大量の唐辛子!
飯山市では令和3年度に、江戸時代から続く長野県の老舗「根元 八幡屋礒五郎」の唐辛子契約栽培に取り組みました。

唐辛子の契約栽培と並行して2つの試験を実施

飯山市で唐辛子の契約栽培を行うにあたり、2つのプロジェクトが同時進行しました。

ひとつは飯山市が唐辛子の栽培に適しているか、採算が合うかなどを検証する試験栽培調査。もうひとつは中山間地域の農地において、唐辛子が獣害被害を回避できる作物であるかを検証する獣害対策調査です。

プロジェクトの参加者を募り、6人と2団体による、飯山市唐辛子研究会が結成されました。

初収穫した唐辛子を持ち寄って選別・出荷

八幡屋礒五郎では、長野県産の原料をより多く使うことで「信州の七味唐からし」としての魅力をさらに高めるため、自社農園での唐辛子の生産や、契約栽培の取り組みを進めています。

今回、飯山市で契約栽培をした唐辛子は、八幡屋礒五郎が信州大学と共同開発した「信八(しんはち)」というオリジナル品種。種まきから収穫までの生育期間が短く、冷涼な中山間地での栽培に適しているものです。草丈は従来の品種より低く倒れにくいため、栽培にかかるスペースや手間を省くことができるメリットもあります。

5月上旬に苗が提供され、鉢上げ後にひと月ほどハウスで育苗し、6月上旬に定植。9〜11月にかけて収穫・納品というスケジュールで進行し、9月16日にはじめての納品日を迎えました。

生産者ごとに収穫・選別をした生唐辛子を選果台に乗せ、それぞれの唐辛子の状態を確かめながら、異物や納品に適さない実を取り除いていきました。

真っ赤に熟した大量の唐辛子

計量し10キロごとに出荷用のネット袋へ。合計で13袋、130キロになりました。

納品は研究会の会員が交代で行います。手順を確認するために全員で、八幡屋礒五郎の工場へ向かいました。

八幡屋礒五郎 牟礼工場へ納品

車を走らせること30分弱。飯綱町にある八幡屋礒五郎 牟礼工場に到着。工場の敷地内に唐辛子畑がありました。

袋の重さを計り、20キロごとに400グラムのサンプルを抜き、品質チェックが行われました。不良品が8個以上だとすべてが不合格となってしまう厳しいチェックですが、初納品は全量受け入れOKとなりました(ちなみにその後、研究会が出荷した唐辛子はすべて合格をいただきました!)。

八幡屋礒五郎の担当者から「飯山産の唐辛子は、工場の畑で栽培しているものより大きい! 見た目もきれいで立派です」とのコメントをいただき、ほっとした笑顔が生産者のみなさんに広がりました。

唐辛子やエゴマなどが栽培されている農園を見学し、栽培担当者と情報交換も行いました。

時間と手間がかかるもぎ取り作業

「栽培はあまり手がかからないが、収穫に手間と時間がかかるんですよ」と言うのは、今回の契約栽培に参加した服部秀人さん。

服部さんの唐辛子畑

赤く熟した生唐辛子の実は、ひとつずつヘタからもぎ取らなくてはなりません。その作業に手間と時間がかかります。最初は畑の中で作業していましたが、収穫がなかなか進まないため、枝ごと切って作業場でもぎ取ることにしたそうです。

そんな話を聞いて、筆者も唐辛子のもぎ取り作業を体験してみました。

唐辛子の辛味成分に要注意! 手袋が必須

椅子に座って脚の上にカゴを置き、赤く熟した傷んでいない実を選んでもぎ取ります。ヘタを残さずきれいに取るには、持ち方や力の入れ方に微妙な加減が必要。

次第にコツをつかんでいき、唐辛子の状態を見やすくするために葉を落とす下処理をしたりし、作業は徐々にスピードアップしていきました。

…とはいえ、もいだ唐辛子のかさは、なかなか増えていきません!

結果は3時間で3キロ弱でした。誰でもできて簡単な作業ではありますが、時間がかかることがよく分かりました。

1キロでこれくらいです

唐辛子に害獣の忌避効果はあるのか?

飯山市唐辛子研究会の会員、秋津そば生産倶楽部は、秋津地区のそば畑の周りに唐辛子を植えました。

遊休荒廃地対策として、飯山市ではそばの栽培が広がっていますが、隣接する荒廃地から侵入してくるイノシシなどに畑を荒らされ、秋津地区では昨年、70aのそば畑が壊滅的な被害を受けたそうです。

唐辛子にはイノシシやクマなどの害獣忌避効果があると言われていますが、検証されたデータがありませんでした。そこでそば畑と荒廃地との間に唐辛子を植え、害獣忌避の効果があるかの検証を行いました。

収穫直前のそば畑を見ると、イノシシが侵入し荒らされた跡が一部にありますが(下の写真、右側の倒伏している部分)、その他は被害がなかったとのこと。

また、唐辛子を植え付けた直後にもイノシシの侵入があったそうですが、唐辛子に被害はなく、唐辛子に害獣忌避の効果があることが確認されました。

唐辛子試験栽培調査は市内2か所で実施

秋津地区では唐辛子の試験栽培調査も行われました。苗の植え方や株間を変えて、生育状況や収穫量、工程ごとの作業時間、生産資材の費用などを記録していきました。秋津より北側の太田地区でも同様の調査を行いました。

収穫時には地域の住人に協力してもらい、作業時間を計測しながら唐辛子をもぎ取りました。

八幡屋礒五郎の契約栽培を飯山市に紹介し、取り組みを支援いただいた長野県北信農業農村支援センターの南澤基信さん。現場にも頻繁に足を運んでいただきました。

秋津そば生産倶楽部のみなさんは、そばの地産地消を推進する、一般社団法人 飯山そば振興研究会の活動もされています。

初年度の感触、今後の取り組みは? 反省会で意見交換

唐辛子の収穫・納品が終わり年が明け、収集されたデータの分析結果の報告などをする反省会が開かれました。

八幡屋礒五郎の担当者と、長野県の南澤さん、生産者、農林課の職員が集まり意見がかわされました

唐辛子の契約栽培について、出荷量の合計は約970キロでした。この量は、令和3年に八幡屋礒五郎が調達した県内産生唐辛子の約半分にあたるということです。

試験栽培のデータからは、鉢上げ・育苗せずに、セル苗から直接定植しても充分生育することが分かりました。次回は栽培の工程をひとつ減らせるかもしれません。

実際に栽培、収穫作業をした生産者のみなさんは同様に、「収穫までは意外と手かからなかったが、収穫作業に時間がかかって大変だった」との声があがりました。

もぎ取り作業に人を雇うことは、買取価格から考えると難しい。一方、契約栽培は売り先が確実にあるというメリットがあります。「畑の広さは一畝(約1a)で、夫婦でやるにはちょうどいいくらいか?」「地域のお年寄りに仕事を作ることができるというよさもある」という声もあり、継続していくか否かの判断は、それぞれの生産者の営農スタイルによって決まりそうです。

収穫作業については手作業で行わざるを得ないので、これ以上の効率化は至難の業。人手もかかります。八幡屋礒五郎の担当者によると、品種改良により収穫をしやすい唐辛子を作る研究も進めているそうです。

また、冬の間にもぎ取って乾燥させた唐辛子を納品している地域もあるそうで、そのようにすれば納品は1回で済み、買取単価も高くなるそうです。しかし、豪雪地で湿度が高い冬の飯山で、唐辛子を乾燥させる施設を作るのは難しいところ…。

獣害被害を回避できる効果は確認できましたが、1年では判断ができません。そば以外の作物でも効果があるかどうかも含め、継続して調査していく必要がありそうです。

いろいろな意見が出て時間オーバーとなったところで、反省会はお開きになりました。

気長に続けていくことで、いつか飯山産唐辛子の八幡屋礒五郎プレミアム缶ができないか? そんな未来を想像しながら、この取り組みは来年度も続いていくことになりそうです。

(撮影・取材:佐々木里恵)

今回の事業は、令和3年度農山漁村振興交付金(中山間地農業推進対策)により実施されました。

タイトルとURLをコピーしました